恋よ、来い。 ~傷心デレラの忘れもの~
体を一通り洗い終えた岸川さんが、浴槽に近づくのを感じた。
それに比例して、「ドクン、ドクン」という私の心臓の鼓動の音が強くなる。

ついに岸川さんが、浴槽の中に入ってきた。
そして・・・私を囲うように、背後からそっと――ガラスを扱うような感じで、本当に優しく――抱きしめてくれた。

「岸川さ・・」
「湖都と一緒に風呂入りたい。それだけだよ。大丈夫。入浴中はリラックスして」と岸川さんに言われて、私はコクンと頷いた。

それからしばらくの間、私たちは無言で「入浴」していた。
お湯の温もりと、背後から抱きしめてくれている岸川さんのおかげで、私の緊張が少しずつほぐれていくのを感じる。

体を密着させている分、私の体から余分にかけてしまっていた力が抜けていくのを、敏感に察したのか。
岸川さんが、「今の俺たちには、これが必要なんだ」と言った。
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