恋よ、来い。 ~傷心デレラの忘れもの~
心の中はすっかり焦っていた私だけれど、寝室のドアはそっと開けなきゃという分別は、まだ残っていた。

目の前には、キャメル色の皮ソファが置いてあり、その向こうはダイニング・キッチンで、そこには誰も――岸川さんも――いなかった。
ホッとした私は、音を立てないように、と自分に言い聞かせながら、ソロリソロリと歩いた。
玄関までたどり着いたとき、横にあるドアの向こうから、水が流れる音が、微かに聞こえてきた。

やっぱり誰かいる!
でも「誰か」って・・・岸川さん?だよね。もちろん。

私は、思わず強張らせていた体を、少し緩めて緊張を解いた。

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