隣に住んでいた男の子と女の子の話〜私の昔話〜
私は今、自分が幸せに順調に暮らしていると感じています。
不満と言えるほどの不満は何もありません。
彼等を忘れずにいることが、自分を貶めることになることも知っています。
なのに、忘れたと思っていても、折りに触れて思い出してしまうのです。
忘れたくても忘れられないのです。どうしてなのでしょうね?

さゆりちゃんとはそれきりでしたが、
ゆうきくんとは一度だけチャンスがありました。

高校3年の秋に、一度、本当に唐突に、
ゆうきくんから電話があったのです。
引っ越した後、一度も連絡などなかったのに。
その時初めて、親同士が今でも年賀状をやりとりしていたと知りました。

彼は嬉しそうに、最近読んだ小説の話や
自分が大学受験することを話してくれました。
あまり聞いたことのない大学でしたが、彼は自慢げでした。
おそらく彼の周囲に大学受験する人は多くなかったのでしょう。

彼の話題にした小説は私も読んだことはありましたが、
私はあまり小説に興味がなく、漫画が好きだと答えました。
彼は「小説くらい読んだほうが良いよ」と言い、
オススメの小説をいろいろ教えてくれました。
そのうちの何冊かは私も読んだ事がありましたが、
もっと読みたいとは思っていませんでした。

私は小説はあまり読まないけれど、科学に興味があって
活字ならブルーバックスや科学系の雑誌を読むのが好きだと彼に言いました。
ちょうどその時読んでいた相対論の本(高校生から一般向けの優しい本です)の話をすると、彼は黙りました。
そして「私も大学受験するよ。◎◎大学(旧帝大)」と言ったら、
それっきり電話は2度とかかってきませんでした。

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