昼行灯
冬の少し前、秋の終わり。夜は冷たく、寒い11月。兄は死んだ。

驚きとか、ショックとか、絶望感とか、喪失感とか、それを全部ミキサーにかけた液体を頭からかけられた。

ぬぐっても、払いきれないスライムの様なそれは、未だにあたしにこびり付いて、時々じくじく痒くなる。

首吊りだったそうだ。

車にユラユラゆられて、家からだいぶ離れた警察署に家族と向かった。父が警察官と、聞き取れないくらいの小声で言葉を交わすと、外にあるほったて小屋に案内された。

白いプレートには、【死体安置所】と記してあった。一文字ずつ確認し終えると、頭をフルスイングで殴られた感覚がした。

実は死んでなくて、やむを得ずここに通されていて、ドアを開けたら、申し訳なさそうな顔をしてる兄を想像した。

泣き出す母。目は真っ赤に腫れ上がっていた。それは父も同じだった。

視線を前に戻すと、ブルーシートに包まれた、おそらく全裸の兄が寝ていた。寒そうだ、と思った。

線香の匂い、ほこりをかぶった小さな仏壇。せめて毛布の一枚くらいかけてやれ。こんな寒い、11月なのに。

ポロポロと涙が次から次へと、視界を遮るようにあふれだした。

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