ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
チケットはありがたくもらい受けることにして、体調を気遣う文章とともに、その旨を返信する。

すると【ピンピンしてるよ。ありがとな】というホッとする返事がきて、チケットは明日、私がもっくんの自宅まで取りに行くことで話が決まった。

メールを終え、「ありがたいことだね」と独り言を呟いて、しみじみと首を縦に振る。


私の中の一番は五木様だけど、石川さゆりもいいよね。

アラブの夜に、彼女の名曲『天城越え』を脳内再生させて以降、CDやDVDを絶賛買い付け中だ。

出勤途中の車内でニンマリすれば、左横から不満げな声がする。


「ひょっとして今のメール、またもっくん?」


「そうだよ。コンサートチケット、譲ってくれるんだって!」と声を弾ませてから、しまったとハッとして、隣を見る。

横目でジロリと、私の手の中のスマホを睨みつけ、彼は明らかにやきもちを焼いている様子だ。

いまだにもっくんをライバル視する彼に少々呆れつつ、私はため息をついて弁解を始める。


「今回のコンサートは、もっくんと一緒に行くわけじゃないからね。まったく……どうしてそこまで目の敵にするんだよ。もっくんのこと、説明したよね?」

「夕羽ちゃんのは、説明になってない。年齢と見切れて顔のわからない写真しか情報ないし。名前すら教えてもらえない」

「名前? えーと、鈴木……なんだったかな」

< 118 / 204 >

この作品をシェア

pagetop