ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
社長室の中はホテル的な豪華さはなく、シックな色合いの機能的な空間だった。

L字型の大きな執務机が奥に設置され、中央には椅子が八脚のミーティングテーブルがある。

ドアに近い側の窓際にはソファセットがあり、他は書類の詰まった書棚と最新式のコーヒーメーカー、背の高い観葉植物の鉢に、稼働中の空気清浄機が目についた。


社長は木目の天板の執務机に向かい、右手にペンを持っていて、用向きを口にした私に頷いた。

その口元は微かに弧を描いたように見えたのだが、すぐに微笑みは消され、不機嫌そうな声を聞く。


「切れているのは、そこの電球だ。津出は下がっていいぞ」


「そこ」とペン先が向けられた方を見れば、二人掛けの黒い革張りソファの上辺りに、天井埋め込み型のライトがある。

時刻は十五時を回ったばかりで明るく、まだ電気をつける必要はない。

それなのに、なぜこの時間に電球切れに気づいたのかと、少々不思議に思いつつも、ソファの後ろに脚立を広げてセットしていた。

すると、「どうした?」と問いかけられる。


「はい?」と社長に振り向けば、その視線はドア前に佇む津出さんに向けられており、どうやら問いかけの相手は私ではないようだ。

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