ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
なぜなら車は社屋の地下駐車場に止まっている。

出入口のガラス扉の真ん前に駐車させた運転手が、バックミラーでチラチラと私たちを確認しつつ、到着の声をかけていいものかと困った様子でいるからだ。

それでも良樹は強引に私に顔を近づけてきて、「こらっ!」とその肩を押して抵抗していたら、突然車のドアが外から開けられ驚いた。


彼の肩越しに見えたのは、今朝もクールビューティーな津出さんの顔。

ただし、眉間には深い皺が刻まれている。


「社長、おはようございます。今日もスケジュールは詰まっておりますので、早く降りて仕事をなさってください」


さすがにドアを開けられては私に迫る気をなくしたようで、良樹は舌打ちして降車する。

続いて私も降りたら、津出さんに冷たい視線を向けられた。


彼女は私たちの交際に反対しているわけではない。

一緒に暮らしていることがばれた日に言ってくれたように、スケジュールを調整して、私と彼が自宅で過ごせる時間が増えるようにと工夫してくれているようだ。

それならばなぜ睨むのかといえば、一緒に車に乗って出勤したことに対してだろう。

会社に着いてしまえば、彼は社長で私は派遣の末端社員。

公私の区別はしっかりつけろと、言いたそうな雰囲気であった。

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