ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
「夕羽ちゃん、二十時には帰るよ。夕食の支度、お願いしていい?」

「うん、OK。社長、今日も一日頑張ってね」


廊下を歩くふたりの姿が、エレベーターのある方へ消えるまでを見送っていたら、疑問が浮かんできた。

女性社員の中で、彼と仕事上の接触が多いのは間違いなく津出さんだ。

美しさに加えてツンデレという強力な武器を持つ彼女を、良樹は恋愛対象として意識したことが一度もないのだろうか……?


ふと湧いた疑問は、私に不安を与えることはなく、まぁいいかとトイレットペーパーのように流れて消えてしまう。

少なくとも私と再会してからの彼の目には、私しか映っていないはずで、今後もそれは変わらない気がする。

そう思うことができるのは、毎日惜しみなく愛情を見せてくれるからであり、安心を与えてくれる彼には感謝しなければならない。


私はどうだろうと考えて、車内でやきもちを焼かせたことを反省していた。

彼のような愛情表現が無理ならば、せめて妬かせないようにしなければ。

今後はもっくんの話題を出さないように、気をつけようと思いつつ、私もガラス扉を開け、総務部に向かうべく廊下を歩き出した。


今日の私の仕事は可も不可もなく平和のうちに終了し、定時で帰宅してから四時間ほどが経過していた。

時計の針は、もうすぐ二十二時を指そうとしている。
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