ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
「他社には頼めない事情があってーー」と彼は疲れた声で続きを話してくれる。


そのプロジェクトでどうしても使用したい特殊ネジは、一度締めると自然に緩むことのない構造をしていて、特許をその会社が取得している。

向こう十年ほどは、独占的な製造と販売が続くらしい。


普通のネジを使用すれば、水を通すパイプラインの定期点検の頻度が上がり、こちらから出向けば高額な費用が後にも発生することになる。

修理も然りだ。

現地の技術者を一人前に育てるのも金と時間がかかるため、なるべくアフターケアの頻度を下げ、かつ簡単にする必要があるそうだ。

そのためにはどうしても、その会社のネジを使いたいという説明であった。


ようやく彼の悩みの大枠は理解したけれど、私にはまだ納得できない部分がある。

派遣の分際で申し訳ないが、眉を寄せて意見させてもらう。


「金額的な問題で受注してもらえなかったの? あんまり安値で押し切ろうとすれば、NOと言われるさ。小さな会社ほど利益を上げないと潰れてしまうよ」


こっちは天下の帝重工のグループ会社で、ネジ製作会社はおそらく町工場のような中小、もしくは零細企業だろう。

よく聞くような、弱い者いじめ的な買い叩きがあるのではないかと推測していた。
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