ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています

彼が教えてくれたことはきっと、私が理解できるようにと、大雑把で簡単な部分だけなのだろう。

実際はもっと多種の問題が複雑に絡み合っていると思われる。

顔色を悪くするほど悩んでいるようだから。


深いため息をついた彼を心配して、「どうするの？」と恐る恐る問えば、「取りあえずこのままにしておけないから、明日、俺が鈴木ネジ製作所に行って謝ってくる」と彼は真顔で答えた。

そして席を立つ。


「夕食は？　カレーライスなんだけど」と声をかけたら、「ごめん」と謝られる。


「食欲なくて。明日の夕食に食べるから冷蔵庫に入れておいて」


それは別に構わない。体調不良の時のカレーはヘビーだ。無理して食べてさらに具合が悪くなっては困ってしまう。


「うん、わかった」と了承して私も立ち上がる。

出ていこうとしている彼を引き止め、「熱はないよね？」とその額に手を当てれば、フッと笑った彼にキスされた。

突然のキスはチュッと軽いもので、唇が離された途端に彼が顔を背けて咳き込んだ。


「え……私の息、臭い？　今日はまだ酒を飲んでないよ。あ、カレー臭か！」


口を押さえて傷つく私に、咳を治めた彼が「違うんだ、ごめん！」と慌てて否定する。


「俺、強いストレスを感じた日の夜になると、決まって咳込むんだ。息苦しくて喘息の症状が出る。でも一時的なものだし、薬はあるから心配しないで」