ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
座り心地のよい革張りシートに深く背を預け、石川さゆりのコンサートチケットを眺めてニヤニヤする私は上機嫌だ。

明日の十四時開演のコンサートが楽しみで、名曲『津軽海峡冬景色』をハミングしてしまう。

すると左隣で良樹が、恨みがましい声で話しかけてきた。


「なんでもっと早くに、鈴木元茂(もとしげ)社長を紹介してくれないんだ」


鼻歌をやめた私が隣を見れば、疲れ顔のイケメンが頬を膨らませて拗ねている。

喘息症状が出るほど悩んだ昨日はなんだったのかと言いたくなる気持ちはわかるが、私だってまさか、良樹を困らせている相手がもっくんだとは知らなかったのだ。

そこは仕方ないことだと許してもらいたく、「仕事を受けてもらえたんだし、まぁいいじゃない。結果オーライってことで」と彼の文句を笑って受け流していた。


あの後、私たちを事務所に入れてくれたもっくんは、まずは私たちの馴れ初めを聞きたがった。

子供の頃の思い出と再会、それからアラブ出張のことなどをかいつまんで私が説明したら、楽しそうに笑ってくれて、それから急に良樹を見る目が柔らかくなったように感じた。


そこからは良樹が話す番で、発展途上国に水のパイプラインを通すというプロジェクトを熱っぽく語れば、もっくんは興味を示して協力したいと言ってくれた。

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