ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
さすがは御曹司と言いたくなる高級そうなスーツや黒い革靴、腕時計がよく似合っている。

ひと言で表すなら、彼はハイクラスのイケメンだ。


失礼にも腕組みをして観察し、「うんうん」と頷いているのは、思いついたハイクラスのイケメンという表現に満足しているからであり、彼が過去の知り合いと合致したからではない。

「思い出してくれた?」と期待にますます笑顔になる彼に、私は苦笑いして頬をぽりぽりと掻いた。


「いやー、さっぱり。すみませんね。人違いでは?」


そう指摘したら、彼の広い肩がストンと落ちて、目に見えて落ち込んでしまった。


「俺にとっては大切な夏だったのに、夕羽ちゃんは簡単に忘れてしまうのか。俺を屋敷の中から連れ出して、素潜りや小蟹捕りを教えてくれたのは君なのに。嘘みたいに綺麗な夕日の前で『また会えるよね?』と聞いたら、『もちろん』と笑ってくれたのに……」


社長は悲しげな目をして、足元に向けてブツブツと恨み言を呟いている。

それを聞いて、頭にひとりの男の子の顔が浮かんできた。

ぽっちゃりとした色白の丸顔で、前髪がやけに直線的な坊ちゃんカット。

私よりひとつ年上だけど、年下みたいに頼りなくて可愛い、あの少年の名は、“よっしー”だ。

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