ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
あれは確か、小四の夏休み。

私の生まれ育った人口五百人ほどの離島に、どこぞの金持ちの息子がやってきた。


それまで二階までの建物しかなかった島に突然、三階建てのお洒落な洋館が短期間で建てられて、島民たちは何事かと騒いでいた。

そうしたら、空気の綺麗なこの島に、喘息治療目的でやってくる子供が、ひと夏だけ住まうための屋敷だと村長に聞かされて驚いた。

その時に初めて、世の中には想像を超えたお金持ちがいることを知ったのだが、そこはまだ十歳の無邪気な私なので、普通にインターホンを鳴らして『あーそーぼ』と声をかけたのだ。


島には小学生が二十人ほどしかいなかったから、同じ年頃の子供は格好の遊び相手。

しかし、彼の世話をする執事のような黒服の怖いおじさんが出てきて、野良犬を追い払うように追い返されてしまった。


それがかえって私の、一緒に遊びたい魂に火をつけた。

こっそり裏口から侵入して、よっしーに会い、『外は楽しいよ!』と連れ出しては、島の子供の遊び方を教えた。

黒服のおじさんに見つかったら、彼は連れ戻されてしまうけど、鬼ごっこか隠れんぼのような気持ちで、逃げるのもまた楽しかった。


懐かしい十歳の夏休みの遊び相手。

あのぽっちゃり色白、ひ弱な坊ちゃんが、目の前にいるハイクラスのイケメンだというのだろうか?

変わりすぎて、面影が見当たらないのだけど……。


「よっしー?」と戸惑いながら問いかければ、落ち込んでいた彼がパッと顔を輝かせた。

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