ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
漁師は常に危険と隣り合わせで仕事をしている。

命懸けの海で船を操り、自分の腕だけで勝負する父を私は尊敬しているけど、ここにいる人たちはなんとなく、第一次産業従事者を見下しそうな気がする。

私だけなら馬鹿にされても構わないが、良樹まで笑われるのは嫌なので、なんと答えればいいのかわからない。


『ぎょ』で止まった私に訝しげな視線が注がれる中、答えを求めて隣をチラリと見やれば、良樹が任せろと言うようにニッと笑い、代わりに答えてくれた。


「漁業関係の会社ですよ。我々が新鮮な海の幸を食せるのは、浜野さんのお力があってのこと。世界経済が停滞する昨今において、販路を大幅に拡大していらっしゃいます。荒波を乗り越えることのできる経営力は素晴らしく、私も見習いたいと思っています」


余裕の笑みで平然と切り返した彼に、私は唖然としていた。


おいおい。随分と話を盛ってくれたね。

確かに父が獲った魚がセレブたちの口に入ることもあるだろうけど、そんな言い方をされたら、まるで流通を掌握している水産会社の社長だと思われるよ。


それに、販路の拡大って、なに?

もしかして、漁協がウニのインターネット通販を始めたことについてなの?

前に良樹が出張先からウニを手土産に帰ってきた時、『うちのウニも、お取り寄せできるよ』と私が言ったことを覚えていたのだろうか。

荒波を乗り越えるという表現についても、経済の波という比喩ではなく、本物の大海原の波だよと、ツッコミを入れたくなる。
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