ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
嘘とまでは言えないが、かなり誤解を与えそうな言い方をされて私は冷や汗をかき、ライバル視してくるお嬢様は唇を噛みしめている。

悔しがる必要はまったくないよと慰めたくなったが、彼女は自力でダメージを回復したようで、『これならどうよ』とばかりに強気な笑顔で質問を重ねてきた。


「浜野さんはどのようなご趣味がおありですの? 私は絵画収集と乗馬とスキューバダイビングを嗜んでおります。もしご興味がありましたら、ぜひご一緒に」


ご一緒する気はないが、趣味の話ならばセレブと比べられても遜色ないと判断して、私は普通に答えようとする。

「演歌と日本酒をーー」

愛していると皆まで言わないうちに、良樹がすかさずフォローに入ってきた。


「彼女は学生時代に日本文化を研究していました。それを生かして今も国内外に、日本の伝統文化や食について発信し続けているんです。先々月に中東への出張に同行してもらった時には、彼女のおかげで有意義な文化交流を果たすことができました」


少しも焦らず、堂々と言い放った良樹に、私は開いた口が塞がらない。


日本文化を研究したことはないよ。演歌が好きで、人より詳しいとは思うけど。

国内外への発信って、なに?

もしかして、【五木様の『千曲川』最高!】とか【純米大吟醸、十五代がうまい!】とSNSに書き込んだことについてを言っているのだろうか。

アラブではベリーダンスを踊り、王子も喜んでくれたけど、あれが有意義な文化交流なの?


言葉が口をついて出てこないけど、『ちょっと待ってよ』と心の中で彼に訴える。

そんな言い方をされたら、まるで私が立派な文化人のように思われてしまうじゃない……。

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