ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
「あ、ありがとうございます……」


なんだろう、緊張だけではない、この居心地の悪さは。

私のイメージが、いい方へ勝手に作り上げられていく。

それというのも良樹の誤解を与えるフォローのせいで、ライバルお嬢様は負けを認めたのか、肩を落として集団から離れていき、男性たちには女性の理想像を見るような目を向けられた。

終いには良樹の友人男性が、「良樹より早く、俺が夕羽さんに出会っていたなら……」と、なぜか私の胸元に視線を止めて羨ましがるから、騙していることに罪悪感を覚えてしまう。


うずうずして背中が痒くなり、『全ては勘違いだ!』と暴露したくなる。

辛抱たまらず良樹のスーツの袖を引っ張って「ギブ」と限界がきたことを小声で伝えれば、彼が私の腰に腕を回した。


「皆さん、私たちはこれで一旦失礼します。他の控室にも挨拶に行かないと。パーティー会場で、またゆっくりと話しましょう」


そう言って集団に背を向け、私をドアの外へと連れ出してくれた。

その後は別のウェイティングルームへ入るのではなく、私は彼を長い廊下の奥にある飾り柱の陰まで引っ張っていき、声を潜めて文句を言う。


「あんなこと言われたら困るよ。そりゃ、良樹に恥かかさないように礼儀正しく大人しくしていようと思うけど、嘘はいけない。みんな私がどこぞのお嬢様だと信じちゃったじゃないか」

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