ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
良樹の表情に力みや緊張はなく、親に私を紹介するという一大事を、まるで夕食の献立の相談をしているかのように平然と話す。

一方、私の背には冷や汗が流れ、怖気付く思いでいた。


家賃なしで彼の家に住まわせてもらい、あれこれと高価な品を買い与えてもらっている身としては、『お世話になっております』と挨拶した方がいいとは思う。

けれども彼の言うように、恋人としてすんなり認めてもらえるとは、どうしても思えない。


頭に浮かんだのは、私と良樹が再会した日に社長室に呼ばれた時の会話。

涙するほどに再会を喜ぶ彼を疑問に思っていたら、私が海難事故で亡くなったと、子供の頃に母親から聞かされたと言われたのだ。

それはおそらくあの夏の私が、良樹の勉強を邪魔して遊びに連れ出していたことが原因で、私を追い払うのに苦労していた執事のおじさんから、害虫だと聞かされたための嘘であろう。

彼の母親の中で私は、恋人どころか、友人失格の烙印を押されているも同然なのだ。

顔を合わせたなら、うちの子に近づくなと、言われる気がしてならない。


やめた方がいいという願いを込めて、「本当に紹介する気なの……?」と問いかければ、キョトンとして目を瞬かせる彼に「当たり前じゃないか」と諭される。

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