ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
私も会場に向かうように指示されたけど……やなこった。


ホールのある方に背を向けた私は、廊下を逆行して突き当たりを曲がり、なにがあるのかわからない方へと足を進める。

心の中には、なぜ前もって教えてくれないのかと、彼への非難の気持ちが込み上げていた。


誕生日を知らされたのが今朝で、なんの心構えもないのに、騙し討ちのように大仰なパーティーに参加させるとは、ひどいじゃないか。

まぁ、悪意があってのことではなく、彼にとってこれは年行事であり、普通の範疇なのだから仕方ないのかもしれないけど……。


批判しているつもりが、いつの間にか気持ちは擁護に回り、彼の笑顔を思い浮かべれば、逃げ出そうとしていることに罪悪感を覚えてしまった。

宮殿のように豪奢な廊下の真ん中で足を止め、悩み始める。


参加しなければ、誕生日を祝う気がないみたいだよね……。

決してそうではないけど、セレブ集団に放り込まれた庶民の私の困惑は、良樹にはわかりにくいものだろうから、彼を愛する気持ちを疑われて不安にさせてはかわいそう。

どうしよう……。


私が嫌なことは避け、かつ誕生会に参加する術はないかと、廊下に佇み真剣に考える。

歩いてきた方からは集団の賑やかな声が聞こえるが、前方は無人である。

と思ったら、数メートル先のシンプルな白いドアが開いて、若い女性が廊下に現れた。

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