ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
彼女は紺色のワンピースに、白いエプロンとカチューシャをつけたメイド風の格好をしている。

そういえば、ウェイティングルームで給仕していた従業員の中にも、同じ姿の女性が数人いたように思う。

この迎賓館では、男性は中世ヨーロッパの執事みたいな黒服で、女性はメイド服という、クラシカルな仕事着を採用しているようだ。


メイド服の彼女は私に気づくと一礼し、脇をすり抜けて足早に去っていった。

周囲にまた人影がなくなると、私は彼女が出てきたドアに歩み寄り、そこに付けられているプレートを読む。


スタッフオンリー……そうだ、これだ!


閃いたのは、客ではなく従業員としての参加であった。

そうすれば、嘘のない庶民的な私のままで、彼の誕生日を祝えると思ったのだ。


白いドアをそっと開けると、中はバックヤードの廊下に繋がっていて、奥の方では従業員たちが忙しそうに行き来している様子が見えた。

私のいる場所の付近には誰もおらず、侵入には気づかれていない。

すぐ近くには女子更衣室と書かれたドアがあり、私は次にその部屋に忍び込む。


広さ八畳ほどの狭い更衣室内は幸いにも無人で、よくあるグレーのロッカーが壁際にズラリと並んでいた。

奥にはクリーニングから戻ってきたと思われるメイド服が、透明なビニールを被ってハンガーラックに十数着かけられている。

その中の私の体型でも着れそうなものを選んで拝借し、急いで着替えをしたら、胸元はキツイけれど気持ちは緩むのを感じた。

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