ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
酒と契りと女の覚悟
◇◇◇
良樹の誕生日から三日が過ぎた水曜日。
外は夕方から降り出した秋雨で気温が下がっているけれど、このリッチなマンションはどの部屋も年中快適で寒さ知らず。
冬になっても、こたつに火を入れる日は来ないのではないだろうかと、二階の私の部屋にあるこたつテーブルに向かって呑気に考える。
目の前にあるのは日本酒を満たした湯飲み茶碗で、一日の労働の疲れを酒に癒してもらいながら、演歌番組の録画を楽しむこの時間がものすごく好きだ。
隣に話し相手がいてくれたら、もっと楽しめるのに、良樹はまだかな……。
時刻は二十二時になるところで、パジャマ姿の私の洗い晒した髪はまだ少し濡れている。
良樹が告げた帰宅予定時刻は少し過ぎていて、夜の冷たい雨に打たれて髪を濡らして帰るのではないかと心配した。
けれども、その直後に心配を解く。
黒塗り高級車で送迎される彼だから、濡れるはずがないと気づいたためだ。
今日はどこかの社長さんとの会食で、『お土産はなにがいい?』と今朝、出勤前に聞かれた。
なにもいらないと答えたけど、良樹は手ぶらで帰らない男だ。
さて、晩酌のつまみとなるのはなんだろうと思いつつ、酢昆布をかじっては、酒をチビチビと口にする。
その時、廊下に足音がして、「夕羽ちゃん、ただいま!」という明るい声とともに、ドアの開けられる音がした。