ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
「お帰……わっ!」

スーツ姿で駆け寄った彼が、背中から強く私を抱きしめる。

おっと、危ない。酒がこぼれるところだった。

私に頬擦りしながら、「会いたかった」と、まるで久しぶりの再会のように吐息交じりに良樹は囁く。

その後は、会食が終わって帰ろうとしたら、相手方の社長に『もう一軒行きましょう』としつこく誘われて、十五分も損したと不満げな声で愚痴をこぼしていた。


「十五分くらい、大したことないじゃん」と答えれば、「それだけあれば、夕羽ちゃんを抱きしめて、キスして、おっぱいを触れるよ!」と力強い声で反論された。


うん、今やってるよね。

頬にチュッチュと唇が当たってるし、後ろから抱きしめられて、遠慮なく胸を揉まれてる。

「まぁ落ち着いて、乾杯しよう」と体に回された腕を冷静にほどき、彼を隣に座らせた。

良樹の湯飲み茶碗に日本酒を注いで「お疲れ」とカチンと合わせてから、「それはお土産?」と床に置かれている紙袋を指差した。


「うん、カニシュウマイ。料亭のものだから美味しいよ」と彼が袋から出して、テーブルに置いてくれた。

お礼を言って「上品な味がする」と、まだ微かに温かさの残るシュウマイを食べつつ、「で?なにか嫌なことがあったんでしょ?」と問いかけた。
< 174 / 204 >

この作品をシェア

pagetop