ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
「俺たちはもう子供じゃない。夕羽も変わったよ。充分に」


ちゃん付けを急にやめて呼び捨てる理由も気になるけれど、聞いている余裕はなかった。

脚立とソファに挟まれて、私は逃げ場を失い、わずか半歩の距離まで詰め寄られていた。

身の危険を感じ、笑顔は引きつったものに変わる。


「そそ、そうなのかな。どの辺が?」と、動揺を隠せない声で会話を続ければ、「例えば、ここ」と、重低音の色めいた声で言われる。


「十歳の頃はまだ膨らみかけの蕾だったのに、今ではこんなにもたわわな実をつけて……」


彼の両手が私の胸に触れた。

その重みを測るかのように胸の下に手を添えて、上下に揺らしている。


これはもしや……セクハラではないのかな?

いくら懐かしい遊び相手でも、こんなことをされたら私は困ってしまう。

『キャア!』と可愛らしく叫べる性格ではないけれど、恥ずかしさはしっかりと感じていて、頬は熱く心臓は大きく波打っていた。

冷や汗をかきつつ、ボインボインと揺らし続ける彼の手首を掴んで止めたら、「触らせてよ。夕羽の成長を感じたい……」とゾクリとするような甘い声を出された。


焦る私は早口になる。

「いやいやいや、八ボインもすればもう充分に成長がわかったでしょう。うん、そうだね。私も変わった。そういうことにしておこう。それともアレかい? 君は巨乳好きなのかな?」


巨乳好きかと問いかけた理由に深いものはなく、とにかくなにかを話して、この北酒場な空気を変えたかっただけなのだ。
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