ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
友達の距離じゃない
◇◇◇
懐かしい友との再会から十日ほどが過ぎた金曜日の午後、私は脚立を担いで電球を手に持ち、十五階へと向かっている。
エレベーター内には私しかいないため、思いきり頬を膨らませてから、溜めた空気を一気に吐き出し「なんなんだ……」と呟いた。
時間はまちまちだが、平日は毎日社長室に呼び出されている。
よっしー、いや社長から直々の内線電話が総務部にかかってきて、『天井ライトが切れたから今すぐ取り換えに来い』と私を指名して命じるのだ。
最初の二、三日は『そんなに電球切れが続くのはおかしいよね。欠陥品なのかな?』と電球の品質を心配していた小山さんも、三日前あたりからは『ええと、そろそろ教えてくれないかな。社長とどんな関係?』と聞いてくるようになった。
他の総務部の人たちも、私に訝しむような目を向けてくるし、仕事がやりずらくて仕方ない。
昔一緒に遊んだ仲だと言ってしまえば楽なのかもしれないが、それをよっしーに禁じられている。
再会した日に、会社ではただの上司と部下の関係を装ってくれとお願いされていた。
それは社長としての威厳を保ちたいからで、厳しい鬼の顔しか社員に見せたくないそうだ。