ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
彼女は綺麗な顔をしかめて「お待ちなさい」とピシャリと言い放ち、さらに歩み寄って私の進路を塞ぐように立った。


「社長室には十二個のダウンライトを使用しておりますが、LED電球に付け替えたのは五年前です。耐用年数は十年以上のはずなんですけど、おかしいと思いませんか?」


つまりは電球切れのはずがないと言いたいようだが、それは私も同意見だ。

思わず頷きそうになり、慌てて首を横に振って言い訳を探した。


「イッツ、ミステリー。いやー、不思議とは、意外と身近なところに潜んでいるものなんですね」

「なにを言っているのかわかりません。ごまかそうとしたって、そうはーー」


津出さんの綺麗な眉間に深い皺が刻まれた時、斜め後ろにある秘書課のドアが開いて、助け舟を出してくれる人が現れた。


「恋歌ちゃん、受付から電話。ランスタッド社の高藤様がお見えになったって」


それを伝えたのは、津出さんより年上の、三十後半くらいに見える女性秘書だ。

「えっ!?」と驚いた顔をした津出さんは、「約束の時間まで三十分もあるのに、早すぎます!」と文句を言いつつ、慌てたように秘書課内に駆け込んだ。


どうやらこっちに構っていられる状況ではなくなったようで、私はホッと息を吐き出して、止めていた足を先に進める。

よかった。あまりしつこく追及されたら、友達だから呼び出されるんだと、うっかり言いそうになるよ……。
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