ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
水曜二十時から放送の『演歌の小道』は毎週欠かさず視聴している。

日本酒をチビチビやりながら演歌を聴くのが大好きで、北海道の離島出身の私が上京した理由は、子供の頃から大ファンの五木ひろし様に会いたかったからだ。

北海道より東京の方が断然コンサート回数が多いから、生の歌声が聴けて幸せだ。

五木様だけではなく、鳥羽一郎や坂本冬美、忘れちゃいけない北島三郎も大好きだ。


「昨日の放送は過去のヒット曲も聴けてよかったよね。ヒットするには理由がある。心のど真ん中にズドーンと入ってきて泣きそうだったよ」


私がしみじみと言えば、小山さんが隣で「うん、うん」と嬉しそうに同意する。

「やっぱり素敵よね」と彼女が言った後に、私たちは声を揃えて好きなアーティスト名を口にした。


「エグザイル」

「五木様」


ちょうど階段を一階まで下りきったところだった。同時に足を止めた私たちは、顔を見合わせて目を瞬かせる。


「浜野さん、今なんて言ったの?」

「五木様。五木ひろしだけど……あれ?」


どうやら小山さんが見た歌番組は演歌の小道ではないようだ。エグザイルは出てこなかったもの。

これは私のとんだ勘違いだと気付いて、「ああ〜エグザイルね」と苦笑いしながら止めていた足を進めた。

すると一階の廊下へと踏み出した一歩目で、向こうから角を曲がって階段側へ来た人に、不運にもぶつかってしまった。
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