ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
しかし、合わせた唇の隙間に「んっ」と色のある声を漏らしてしまうと、自分らしくない嬌声にハッと我に返った。


まずい。このまま流されては、純粋な友達ではなくなり、セフレといういかがわしい関係になってしまう……。


私を捕まえていた彼の手は、今は私のTシャツを捲り上げようとしていた。

拘束を解かれた今がチャンスだと、私はその胸を両手で押してキスから逃れ、椅子を鳴らして立ち上がる。


「よっしー、あのさ!」


顔が熱く火照り、体が汗ばんでいるのを感じながら、息を乱して言った。


「次の土曜か日曜の日中、時間を作ってほしい」


私を見上げて彼は目を瞬かせる。

それから顔を輝かせ、「デートの誘い?」と嬉しそうに問いかける彼に、「墓参りだよ!」と私は語気荒く否定した。


「誰の?」

「君のじいちゃんの」


「なんで?」と聞かれたら、許しを請うためだ。

祖父の祟りを気にしてやり方を変えられないのなら、先にお伺いを立てればいいのではないかと考えたのだ。

どうしても鬼の仮面を外してもらわねばならない事情が、私の側にできてしまった。

仕事で疲れを感じるたびに、癒しを求めて迫られては、私の心がもたない。

彼の色気に流されて、セフレ関係になるのは御免だと思っていた。


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