ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
それでハッとしたように、もとの冷酷そうな雰囲気を取り戻した社長は、私たちとの会話を終わらせて横を通り、階段を上っていく。
エレベーターを使わないのは、待っている時間がないと判断したためなのか。
私とぶつかったために、結局は時間をロスしてしまったようだけど。
駆け上がるようにして上階へと消えたふたりを見送ってから、私はただの感想として呟いた。
「社長って、怖いというより変わった人だね……」
それは独り言のつもりだったのに、小山さんが「んー」と可愛らしく唸ってから、答えてくれる。
「今は様子がおかしかったけど、いつもは怖いよ。なんにしろ、怒られなくてよかったね」
その言葉に「確かに」と笑顔で頷いた後は、気持ちは昼食へと戻される。
日替わり定食の売り切れを心配し、私たちは急ぎ足で社食に向かった。
それから三時間ほどが経ち、今度は終業時間を待ち侘びながらのデスクワークが続いている。
どうしよう。頭が数字の大群に襲われて、苦しくなってきた。
こんな時には五木様の名曲を、頭の中に流そうか。
そう思い、キーボードに手を動かしながら『そして…めぐり逢い』を脳内再生してみた私だが、歌詞まで到達しないイントロの段階で、「浜野さん!」と隣の小山さんに注意された。
「鼻歌、歌っちゃ駄目だよ」
え、口に出てた? これは失敬。
どうやら仕事中の演歌は慎んだ方がよさそうだ。
エレベーターを使わないのは、待っている時間がないと判断したためなのか。
私とぶつかったために、結局は時間をロスしてしまったようだけど。
駆け上がるようにして上階へと消えたふたりを見送ってから、私はただの感想として呟いた。
「社長って、怖いというより変わった人だね……」
それは独り言のつもりだったのに、小山さんが「んー」と可愛らしく唸ってから、答えてくれる。
「今は様子がおかしかったけど、いつもは怖いよ。なんにしろ、怒られなくてよかったね」
その言葉に「確かに」と笑顔で頷いた後は、気持ちは昼食へと戻される。
日替わり定食の売り切れを心配し、私たちは急ぎ足で社食に向かった。
それから三時間ほどが経ち、今度は終業時間を待ち侘びながらのデスクワークが続いている。
どうしよう。頭が数字の大群に襲われて、苦しくなってきた。
こんな時には五木様の名曲を、頭の中に流そうか。
そう思い、キーボードに手を動かしながら『そして…めぐり逢い』を脳内再生してみた私だが、歌詞まで到達しないイントロの段階で、「浜野さん!」と隣の小山さんに注意された。
「鼻歌、歌っちゃ駄目だよ」
え、口に出てた? これは失敬。
どうやら仕事中の演歌は慎んだ方がよさそうだ。