ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
肩に寄りかかるなど、とんでもない。

眠るどころか、この前の濃厚なキスを思い出して、鼻息が荒くなってしまいそう。


そんな気持ちに気づかれまいとして、車窓を眺めて平静を保とうとしていたら、肩に重みを感じた。


「それなら俺が寝てようかな。夕羽ちゃん、肩貸してね」


今日はワックスで固めていないサラサラの髪が、私の頬と首をくすぐり、心臓が大きく波打つのを感じた。


「よっしー……」

「ん?」

「なんでもない。おやすみ……」


なんでもなくはない。顔が熱く火照り、布越しに触れ合う体や耳元に聞こえる静かな呼吸音を意識してしまう。

まさかとは思うが、私の心を乱そうとしているわけじゃないよね?

まったく困った男だ。

これは、友達の距離感じゃないでしょう……。


気づかれないように胸を高鳴らせること、三十分ほど。

車は立派な門構えの寺院の敷地内に入っていき、やっと彼が私の肩から頭を離してくれた。

木々に囲まれた寺院は静かで、まだ盆までに半月近くあるため、私たちの他に墓参りの車はいなかった。


歴史のありそうな二階建て寺院の建物の脇には、二十台ほど止められそうな駐車場が整備されていて、そこに停車するや否や、建物の中から袈裟姿の僧侶が三人、駆け出てきた。

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