ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
運転手がドアを開けてくれて、よっしー、私の順で降りると、僧侶たちが深々と頭を下げる。

その中の一番年長の、七十代に見える僧侶が手揉みをしながら、よっしーに笑顔を向けた。


「三門様、ようこそお越しくださいました。日頃からの並々ならぬお心遣いと御帰依に、我々一堂は……」


早朝とはいえ、七月末の太陽は私たちを眩しく照りつける。

要約すれば『いつもありがとう』という挨拶の言葉が五分ほども続いて、額にジワリと汗が滲んだ。


長い挨拶がやっと終わると、私たちはぞろぞろと建物の裏手にある墓地へ向かう。

よくある角柱の墓石が二百基ほど、林の中の開けた一帯に並んでいて、三門家の墓は寺の建物に近い側にあった。


古い墓石の周囲は、松や石塔や岩で飾られて、白砂が敷いてある。

他の墓の五倍ほども広スペースを占有していて、ちょっとした日本庭園のようだ。


持参した花や果物などの供物を捧げ、線香に火をつけて合掌し、僧侶が経を唱える。

実に墓参りらしい一連の行為がすめば、やっと私の出番がやってきた。

ここへ来たのは、よっしーの祖父にお願いがあってのことで、鬼の仮面を外すことを躊躇する孫に『いいよ』と言ってもらいたいからである。

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