ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
恋の結実、アラビアンナイト
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よっしーの祖父の墓参りから半月ほどが過ぎていた。
東京暮らしも五年になるが、夏の暑さに慣れることはない。
やはり私は北国の女なのだと感じたら、頭には北海道を舞台とした演歌の名曲の数々が流れてきた。
数値入力という退屈なデスクワークは、前ほど苦にならず、朗らかな心持ちで演歌を口ずさんでも、隣では小山さんがクスクスと笑うだけである。
「浜野さんって、本当に演歌が好きなんだね」
「あ、また口に出ちゃった。ごめん、ごめん」
「いいよ。ほら、あと二分で昼休みだし」
彼女に言われて腕時計に視線を落とし、もう十二時になるのかと驚いていた。
以前の私は昼はまだか、退社時間はまだかと、何度も時計を確認していたが、それがないということは、随分と気持ちを楽にして働けるようになったということだ。
私だけではなく、社内全体のピリピリと張り詰めたような空気は消えて、社員たちの笑顔や会話が増えたように思う。
それは社長が、鬼の仮面を外してくれたからであろう。