ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
昨日は社食で、他部署の男性社員ふたりがこんな会話をしていた。


『午前中の会議後に社長に呼び止められたんだけど、いつもご苦労様って言われた』

『お前も? 社長、なんか雰囲気変わったよな。優しい顔つきに見える。なにかいいことあったのかな?』


それを嬉しく思って聞きながら、よっしーの祖父に頼みに行って本当によかったと、しみじみとした達成感に浸っていた私であった。

もっとも、彼が社内でも優しい顔を見せるようになった理由は、カラスが『オーケー』と鳴いたからというよりは、私のせいかもしれない。

社員たちの評価として『鬼で閻魔で死神』だと私が話を盛ったことが、今のままではまずいと思わせる結果に繋がったようだ。


もう昼休みかと、さらに気を緩めた私は、「うーん」と両腕を天井に向けて突き上げてから、力を抜いて椅子の背もたれに体重を預ける。

「最近の総務部は居心地いいね」と隣に話しかければ、小山さんがウフフと意味ありげな笑みを浮かべた。

「これも浜野さんのおかげよね。社長と友達なんてすごいな」と声を潜めずに言うから、周囲の視線を浴びてしまった。

窓際の私のデスク周囲は、半円を描くようにたちまち人が集まり、質問責めに遭う。


「友達なの? 同級生とか?」

「浜野さん、北海道の離島出身と言ってましたよね。社長との接点はどこに?」

「どんな友達付き合いを? まったく想像がつかないよ」
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