ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
おいおい、みんなちょっと食いつきすぎだよ。

田舎者でただの派遣社員の私と、三門家の御曹司の社長が友達だというのだから、そりゃ驚くのもわかるけどさ……。


注目されて少々照れながら「いや〜」と頭を掻いて説明する。

「小四の夏休みに、社長が離島に遊びにきたことがあって……」


社内で昔の話をするのも解禁で、彼との友人関係を隠さなくていいのは、私としても気が楽で喜ばしいことだ。

今一緒に暮らしていることについては、あらぬ方向へと噂が広まるのは困るので打ち明けるつもりはなく、子供の頃のエピソードだけを説明する。

興味深げに聞いているのは総務部の社員だけではなく、パーテーションで仕切られた向こう側の営業部の人たちまで集まってきて、気づけば四十人ほどに囲まれていた。


「それから?」「もっと聞かせて!」と楽しげな顔で催促されて、私は困る。

ざっと話したのに、まだ足りないのかな……。

私の父がよっしーを漁船に乗せてあげたら、出港する前に船酔いしてケロリンした話でもしようか?

いや、あまり情けない話をすれば、今は偉い立場にいる彼の尊厳を傷つけかねないし、やめておこう。


「みなさん、すみません。日替わり定食が売り切れる前に、私は社食に行かねばならないのですよ」

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