ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
その気さくな誘いに、私に対しての怒りや不満はないと判断して緊張を解く。

「いいよ」と笑顔で了承したら、周囲がどよめいたので、私は肩をビクつかせた。

どうやら私たちの親しげな会話に対しての反応のようだが、女子社員の黄色い歓声が混ざっていることには、首を傾げる。


もしかして、なにかを勘違いされた?

友達だと説明したつもりだったけど、実は甘い関係ではないのかと疑われてしまったのか……。


今すぐに違うと否定すべきか。それともこのざわつきが収まってからにすべきかと迷っていたら、彼が私に歩み寄った。

スーツの左腕が私の肩に回されて、なぜか皆に向かって並んで立たされる。


周囲の興奮はさらに増し、私はなにをするのかと批判的な目で彼の顔を見上げる。

視線は合わず、彼は集団を見回して、どこか挑戦的な口調で低い声を響かせた。


「皆さんに頼みがある。夕羽に好意的に接してくれるのはありがたいが、飲み会や遊びに誘わないでくれ。同棲していても、なかなか時間が取れなくてね。少しでもふたりの時間を多く確保したいんだ」


当然のことながら、取り巻く社員たちは大いに驚き、「同棲!?」「恋人なんだ!」と大騒ぎだ。

しかし、誰より驚いているのはこの私。

声も出せずに目を見開いて、なぜか満足げな彼の顔をまじまじと見てしまう。
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