ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
この男、一緒に暮らしていることをさらっと暴露してしまったよ。

世間一般的に、友人関係にある男女は同棲しないものだろう。

恋人だと誤解されてもいいと言うの……?


私は周囲に気を使わせてしまうことくらいしか不都合はないが、彼の側には色々と問題がありそうな気がしてならない。

いずれ帝重工グループを背負って立つ彼だから、交際相手の話題に敏感になる人が多いことだろう。

例えば、親族やグループ内の上層部、取引先や私の知らない経済界の大物など、金持ちは色々と面倒くさそうだ。


彼を心配し、ただちに誤解を解いた方がいいと思い、上擦る声で「よっしー」と呼びかけたら、彼がふとなにかに気づいたような顔をして、ジャケットの内側に手を差し込んだ。

取り出したのはスマホで、バイブ音が聞こえている。

どこかからの着信に応対した彼は、「すぐに戻る」と言って内ポケットに戻し、申し訳なさそうに私に言った。


「夕羽ちゃん、ごめん。急用が入ってランチの時間がなくなってしまったよ。今日はなるべく早く帰るから、それで許して」

「う、うん。それは別に構わないけどーー」


私の返事を皆まで聞かずに、彼は急ぎ足で総務部から出ていった。

聞いてもらえなかった続きの言葉を、私は独り言として呟く。


「ランチも帰宅時間もどうでもいいけどさ、この騒ぎだけは鎮めてから出ていってよ……」


再び始まった、やかましいほどの質問攻撃に、私の背には冷や汗が流れる。

日替わり定食の売り切れは決定的で、それどころか昼休みが質疑応答で消えてしまいそう。

これは家で文句を言わせてもらわなければと、大きなため息をついていた。

< 80 / 204 >

この作品をシェア

pagetop