ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています

時刻は二十時四十五分。

私の部屋のこたつテーブルの上には、愛知の純米大吟醸『醸し八平次』を注いだ湯飲み茶碗がふたつ置かれている。

冷やしても爽やかに香り、微かな酸味が夏に相応しい。

ああ、染みるな……。


テレビは今放送中の歌番組を映しており、川中美幸の『ふたり酒』を聴きながら、よっしーが買って帰った特Aランク和牛のローストビーフを食す。

贅沢を教えてくれる彼に感謝しつつも、私は昼間の会社での騒ぎについて説教していた。


「よっしーが総務から出ていった後、大変だったんだよ。どんな家でどんなふうに過ごしているのか。社長といちゃついたりしてるのかって、質問の嵐だ」


そのせいで社食にさえ行けずに昼休みは終わってしまい、小山さんが買ってきてくれたコンビニのあんパンひとつという、寂しい昼食になってしまった。

部屋着姿の私は日本酒を煽り、「なんで同棲してると言っちゃうのさ」と責める。

すると、スーツのズボンと白いワイシャツ姿で、私にくっくほどに体を寄せてあぐらをかく彼が、口を尖らせ反論してきた。


「営業部の男が夕羽ちゃんを飲みに誘ったから、なんかむかついて。それに、夕羽ちゃんが隠し事はしたくないと言ったんじゃないか」

「むかつく? よくわかんないけど、隠す必要がないと思ったのは私たちがどんな関係にあるかについてで、一緒に暮らしていることじゃない。そこは秘密にしてもらわないと、困るでしょ」
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