ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
「なにが困るの?」と不満げな声で問い返した彼に説明したのは、昼間もよぎった心配だ。

同棲イコール恋人関係にあると、誰もが思うに違いない。

三門家の御曹司なのだから、親を始めとした親族や仕事の関係者たちが、交際相手を気にすることだろう。

相手が私だと知れば、全力で止めに入るのではなかろうか。

女らしさの欠けた、ただの漁師の娘が、三門家の嫁に相応しいとは思えない。つまりは身分違いというやつだ。


それを話せば、なぜか彼が肩を揺すって笑い出す。


「身分違いって、いつの時代の話だよ。俺は庶民だよ。明治時代の三門は子爵を名乗っていたそうだけどね」

「子爵!? 本物のお貴族様じゃないか!」

「だから昔の話。俺の交際相手を周囲にとやかく言わせないから安心して。そのうち親にもきちんと夕羽ちゃんを紹介しようと思ってる」


「それならいいけど」と答えてから、湯飲み茶碗を持った右手が空中でピタリと止まった。

なにかがおかしいと目を瞬かせ、はたと考え込む。


私を親に紹介とは、これいかに。

わざわざ『一緒に暮らしている友達です』と言いに行かねばならないのだろうか?

よっしーの口振りだと、私と交際中という認識が、当たり前のように彼の中に存在しているようにも聞こえたんだけど……。
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