ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
念のため、私たちの関係が友達であることを確認しようとしたが、ローストビーフをつまんだ彼の箸が私の口に突っ込まれたため、それを咀嚼するしかなかった。

ひと切れ二千円もするそうだから、しっかり味わわないと損をする。

ほどよく脂の乗った柔らかな赤み肉の旨味は絶品で、頷きながら噛みしめているうちに、確かめようとしていた疑問を忘れてしまった。


私の湯飲み茶碗に、一升瓶から酒を注いでくれる彼は、話題を変えた。


「夕羽ちゃん、次の日曜、空けておいてね。鰻の美味しい店を夕方に予約したから」


ローストビーフを飲み込んで、日本酒をちびりと口にした私の頭には、鰻の蒲焼の味が浮かんできた。

夏は鰻だよね。

彼が連れていってくれる店なら、さぞかし美味しいことだろう。

甘辛いタレを纏った肉厚の鰻に、山椒をたっぷりと振りかけて、ご飯とともに掻き込みたい。


想像してよだれが出そうになった私だが、次の日曜の夕方はとても大事な予定があるので、キッパリと断った。


「その日は駄目。待望の五木様のディナーショーに行くんだよ」


三カ月ほど前にファンクラブ先行予約で手に入れたチケットは、タンスの引き出しに大切にしまってある。

時々出して眺めては、その日が来るのを楽しみにしていたのだ。

どんな高級鰻重だって、五木様には敵わない。
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