ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
面白くなさそうな顔をして、じっとりと私を見つめてくる彼を無視し、私は立ち上がってタンスの前に移動した。

引き出しからチケットを取り出してニヤニヤしてから戻し、続いてハンガーにかけている夏らしい水色のワンピースを体に合わせて、満足して頷いた。


これはディナーショーのために、貧しい財布から二万を叩いて新調した服だ。

Tシャツとデニムパンツで行くわけにいかない。

五木様に会うのだから、それ相応の格好をしていかなければ失礼にあたる。


服をチェックした後は、もうひとつの引き出しから、ネックレスケースを取り出した。

そうそう、アクセサリーも必要だよね。

蓋を開ければシンプルな一連の真珠のネックレスが現れる。

冠婚葬祭で活躍してくれるこれが、私が持っている唯一のアクセサリーで、母のお下がりだ。

少々錆の入った留め具を見れば、年代物なのがよくわかる。


何気なくケースからネックレスをつまんで持ち上げた私は、「わっ!」と驚きの声をあげた。

糸が切れてしまい、真珠がバラバラになって絨毯に散らばったのだ。


「ああ……修理しないと。でも、ディナーショーに間に合わないかな。買い直した方が安いかもしれないよね……」


予期せぬ痛い出費にテンションが下がってしまったが、壊れたのが今でよかったと思い直す。

ディナーショーの真っ最中に安物の真珠をばら撒くよりは、ずっといい。
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