ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
「ごめん、ごめん。次の日曜、ちゃんともっくんの顔を写してくるから」と苦笑いしたら、彼はプイと顔を背けて口を尖らせる。


「撮らなくていい。ふたりが仲良くしている姿は見たくない」


しまった。余計に拗ねちゃった。写真を見せようとしたのは、逆効果だったか……。


私が後悔したその時、インターホンが鳴り響いて、今度は声に出して「しまった」と呟いた。

訪問者は宝石商に違いない。

足早にドアまで移動したよっしーは、「着替えたら夕羽ちゃんもリビングに来てね」と言い残して出ていった。

言われなくても、Tシャツとパジャマのズボンという格好で人前に出るつもりはない。

というより、宝石商が到着する前に、キャンセルの電話をさせようと思っていたのに、到着が早すぎるよ……。



それから三十分ほどして、宝石商の中年の営業マンは、深々とお辞儀をしてからホクホク顔で帰っていった。

玄関から一階のリビングに戻った私たちは、十数人掛けのコの字型のソファに隣り合って座り、テーブル上に並べられた五つのネックレスケースを見つめていた。


もう、どうしてくれようか、この富豪男。

宝石商のおじさんが持ってきたネックレス五点を、勧められるがままになぜ全て買ってしまうのか。
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