ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
ネックレスケースはどれも蓋が開いており、その中身が天井からの照明を反射させて、眩い光を放っている。

大粒の天然パールに、三連のダイヤのネックレス。ルビーにサファイアに翡翠と、こんなに豪華で華やかなものを、どこにつけていけと言うのだろう。

頭を抱える私に対して、彼は楽しそうな弾んだ声を出す。


「もっくんと出かける時は、必ずこのネックレスをつけていってよ。それで、俺に買ってもらったって、もっくんにアピールしてきて」

「うん……わかったから、お願い。もう二度と私のために大金を使わないと約束して」

「これが大金? 一億にも満たないけど。この前買ったプライベートジェットに比べたら、随分と安い買い物だよ」


思わず顔を上げて隣を見れば、両腕を頭の後ろで組み、ソファに深く背を預けて呑気にあくびをしているイケメンがいた。

彼にとって、このネックレスの代金は、はした金らしい。

呆気に取られつつ、プライベートジェットという言葉で、思い出したことがあった。


それは十日ほど前の、お盆休みに入る少し前のこと。

土日に無理して時間を作り、私を高級店にばかり連れていく彼に、『たまには庶民的な店で、食べ慣れた安い料理を楽しみたい』と本音を漏らしたら、『例えばどんな?』と問われた。
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