ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
小山さんに呼び出し内容を伝えると、「脚立が必要だよね。男性社員にお願いした方がーー」と言われてしまう。


「いやいや、私にやらせてくださいな。脚立なら指一本で持てる。力持ちなんで」


同世代の男性に比べたら、生物学的な筋肉量の差で負けるだろうけど、この会社の女性の中で一番力があると断言してもいい。


上京してからも、年末年始やお盆などの長期休暇は離島に帰省して、漁師である父の手伝いをしている。

船舶免許を持っているし、大漁の重たい網を不安定な船上で引き揚げる作業もする。

脚立のひとつやふたつがなんだというんだ。私に言わせれば、電球一個運ぶのと対して労力は変わらない。


それよりもなによりも、デスクワークから解放されたいという一心で立ち上がり、カッと目を見開いて「私ひとりで大丈夫!」と迫ったら、小山さんは「う、うん。わかった。頑張ってね」と快く送り出してくれた。


備品保管庫は地下一階にある。

そこまで行って、分厚いファイルで社長室の電球の種類を確認し、棚に並べられた段ボール箱の中から新しい物を探して手に取った。

それからドア横に立てかけられている脚立を「あらよっ」と肩に担ぎ、エレベーターで十五階まで上がる。

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