ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
とんでもないことを言い出した彼に、私は目を丸くする。


庶務担当の派遣社員を海外出張に同行させて、なにになる?

役に立たないどころか、邪魔しそうで怖い。

取引先の人だって、仕事についてなにもわからない私に首を傾げることだろうし、変に気を使わせてしまうかもしれない。


驚きの波はすぐに引き、そういった趣旨の反論を淡々と返したが、彼のテンションは下がらず、嬉々としてスマホを取り出している。

そして「津出に夕羽ちゃんの同行を伝えないと」とメールを打ち始めた。

私の懸念に対しては、「その点は大丈夫」と平然として答える。


「仕事相手は十年来の友人でもあるんだ。フレンドリーで気さくで、気前のいい奴だよ。仕事の話半分、友達としての交流半分といった出張になると思う」


その人柄の説明に、もっくんみたいな人なのかと想像した私は、頬の緊張を解いて「ふーん」と頷いた。

けれども、その後の補足に私の笑みが固まる。


「去年は休暇に使ってくれと、小島を贈られたし、三年前は油田もくれた。太っ腹な男なんだよ」


島と油田をくれる友人って、どんな人……?

私の分まで坂本冬美のコンサートチケットを買ってくれたもっくんは、気さくで気前のいい友達だが、よっしーの友人を同類に考えてはいけなかった。

富豪の友人は、当然のことながら富豪ということなのか……。


そう考えれば、私たちが友達であることは、奇跡的で激レアなのかもしれない。

秘書の津出さんからの返信メールを受け取っている彼を見ながら、私はすごい人と暮らしているのだなと、今更ながらに感じていた。


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