ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています

五木様のディナーショーもすんだ八月下旬の火曜日、よっしーに連れられて成田空港から飛び立った私は、半日ほどをかけて中東の石油産油国までやってきた。

到着したのは現地時間の夕方で、東京より暑い外気温の中、空が茜色に燃えている。

空港までお迎えが来ていて、黒塗りの高級車に乗せられた私たちは、よっしーの友人でもある仕事相手の住まう屋敷へと向かっていた。


この出張は私たちの他にも開発部の三十代の男性社員がふたり同行していて、四人全員の今夜の宿はその屋敷。

富豪の友人が、ぜひ我が家に泊まってくれと言ったそうだ。


二台の車に分乗しての移動で、この車の後部席には私とよっしーのふたりだけ。

車窓の景色を物珍しげに眺めつつ、東京とさほど変わらぬ高層ビルの数に驚いていた。

はぁー、かなりの都会だね。


街路樹が見慣れぬ南国の植物であったり、アラビア語の看板や民族衣装の通行人を見れば、中東の雰囲気を感じるけれど、私の想像とはだいぶ違った。

アラブと聞いて私が思い浮かべるのは、ランプの巨人が登場するあの名作の世界。

砂漠があり、ラクダがいて、モスクがある。エキゾチックでどこか古めかしさがあり、絨毯が空を飛んでいてもおかしくない街並みを期待していたのだが、残念ながら非常に現実味のある近代都市の中を進んでいた。

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