ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
今日の私はよっしーが用意してくれた、タイトスカートタイプのベージュのスーツ姿だ。

ライトグレーのスーツ姿の彼に「ねぇ」と呼びかければ、隣の座席で書類に目を通していた彼が、「なに?」と私を見た。


何度もこの国を訪れている彼にとっては、車窓の景色に珍しさを感じないのかもしれないが、初めての中東を旅する私に少しばかり付き合ってもらいたいところ。

想像より随分と都会的で、私のイメージと異なっているという感想を伝えれば、彼は目を瞬かせてから真顔で私の肩をポンと叩いた。


「夕羽ちゃん。知らなかったのかもしれないけど、絨毯はどこの国でも敷くものであって、空は飛ばないんだよ。ランプから巨人も出てこない」

「そんなことはわかってるよ! ただ、もう少しアラビアンな景色を期待していたと言いたかったの」


口を尖らせて反論したら、クスリと笑った彼に「それなら問題ない。今、期待通りの場所に向かっているから」と頭を撫でられた。

その言葉通り、一時間ほど移動して目的地に到着した私は、降車するなり「アラビアン!」と目を輝かせた。


玉ねぎ型の屋根が八つと、四本の尖塔を備えるエキゾチックな外観の大邸宅が、目の前にそびえている。

ここは大都市の郊外にあたるのか、周囲は砂地に椰子の木が茂り、泉もあって、砂漠の中のオアシスのようだ。

ドアや窓は中東の雰囲気の漂う透し彫りの入ったアーチ型で、長い外廊下に連なる柱の隙間からは、橙色の明かりが温かく漏れている。

空は紫がかり、夜の帳が降りようとしていて、青白く見える白亜の壁と、屋敷の暖色の明かりとのコントラストが、芸術的に美しかった。
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