ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
こんなにも豪奢な大邸宅が、彼の友人の住まいらしい。


「お城みたい」と嘆息すれば、「城に準ずるものかもな」と隣で彼が平然と言う。


「俺の友人はこの国の第八王子だ。王位継承権の順位はかなり下だから、王族というより実業家の面が強いけど」


王子……まじですか。

外国の王族を友だと言い切る彼を唖然として見つめれば、只者ではない気がしてきた。

あの夏の、少々頼りないぽっちゃり少年の面影を探したが、見つけられず、彼を見る目が変わってしまいそうだ。

知らない人と一緒にいるような心持ちになり、一歩横にずれて距離を取れば、ムッと眉を寄せる彼に腕を掴まれて、引き寄せられてしまった。

私の手を自分の腕にかけた彼は「俺から離れることは許さない」とニヤリと笑って言い放つ。


「はい……」


なぜか彼が頼もしく見えて、私の鼓動が高鳴った。

これが旅先マジックというやつか。

初めての場所に戸惑う中、同行者が堂々と振る舞っていれば、かっこよく見えてしまうもので、私の今の心境もそういうことにしておこうと思う。

心なしか顔が熱い理由は、東京の夏よりも高い気温のせいに違いない。

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