ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
そうやって心の中で屁理屈をこね、似合わない乙女チックなときめきを押し込めたら、もう一台の黒塗りの車から、同行の社員ふたりも降りてきた。

腕を組んでいる姿を見られても気にする様子のないよっしーは、「行こうか」と私をエスコートして、白と青のタイル敷きのアプローチを歩きだす。

すると数メートル先にある、大きな両開きの玄関ドアが開いて、満面の笑みを浮かべたひとりの青年が両腕を広げて現れた。


丈長の白い民族衣装のカンドゥーラを纏い、頭には白地に赤い模様入りの布を被って、黒いリングを嵌めている。

ワイルドな顎髭の似合う彫りの深い美青年で、彼が屋敷の主人である王子だと思われた。


玄関ポーチで対面すると、王子とよっしーは両手でしっかりと握手を交わす。

ふたりが楽しげに語らう言語は英語だが、日本語しか話せない私にはさっぱりわからない。


よっしーが私を紹介してくれて、王子がにこやかに声をかけてくれる。

なにかを答えなければと焦った私は、「サンキュー。オーケー。アイハブ、ア、ペン」と知っている単語を並べてみた。

そうしたら、ふたりは顔を見合わせてから吹き出して大笑い。

後ろからは、男性社員ふたりの笑い声も聞こえて、私はしくじったことを悟る。


なんか全員に馬鹿にされたようだけど……。

その通りだから、まぁいいかと不満には思わずに、取りあえず私も一緒に笑っておいた。

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