溺愛ラブ・マリッジ~冷徹上司が豹変しました~
「わからないのなら、いい」

組んだ指をほどくと君嶋課長は私から視線を外し、パソコンへと向かった。

私も自分の席へと戻る。

どきどきと早い心臓の鼓動が落ち着かない。
だらだらと嫌な汗がいつまでも流れ続ける。

――だから苦手なのだ、私はあの人が。

ことあるごとに問うようにじっと見つめてくるから。


落ち着かないまま仕事を再開すると、視界の隅で山野さんが君嶋課長に近付いていった。

「君嶋課長。
コーヒーどうぞ」

語尾にハートマークが付きそうな声で山野さんは机の上にコーヒーのカップを置いた。
君嶋課長はちらりとだけ見たものの、そのまま無表情でキーを叩き続けている。

「お茶汲みは各自でするようになっている。
こんなことをするくらいなら、仕事をしたらどうだ」
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