五十夜美咲事件帳 No.000【男スポ作品】
 ですが、思わぬことに警察に呼び出されてしまった。

 しかも自分以外の店員も。

 あなたは焦ったはずだ。

 万が一自分以外の人間がエアコンを触ろうとしたらどうしよう、とね。

 エアコンのリモコンは厨房の奥に据えられていますから第一発見者が押すことはまずない。

 その間に死体が転がっていますからね。

 だが、現場検証の段階ではそうはかない。

 そうなると誰よりも早く自分が操作しておかなければならない。

 だからあなたは厨房にやってくるやいなや、エアコンのスイッチを入れにいった……」

「ふ、ふふふふ……」

 五十夜警部補の推理に皆が息を呑んで聞き入る中、やけに場違いな笑い声を上げたのは、越野さんその人だった。

「それが、私が犯人だという証拠なの?

 確かに私はエアコンの操作を厨房に入るやいなやしたわ。

 操作スイッチのところに指紋はべっとりついているでしょうね。

 でもそれがどうして証拠になるのかしら?

 どこに指紋がついていても、それがいつついたかなんてわからないじゃない」

 黒髪をぐっ、とかき上げる仕草がその小柄な身体からはとても想像できない威圧感を湧き起こらせる。

 その強い意志を持った瞳からは何の迷いも怖れも感じません。

 ですが、五十夜警部補はそれをいつもと同じ眠たげな瞳でさらりと受け止めます。

 そして、

「いえ、指紋が“暖房”のスイッチにさえついていればそれで十分です」

「え? あ!?」

「気付いたようですね……厨房で冷房は使うことがあっても、暖房を使うようなことは“絶対にない”んですよ」

 なぜなら生の食材を出していたり保存していたりする以上暖房を使うことはまずありませんし、ましてや営業中であればたくさんの火を使っていますから使う必要がないのです。

「……っく」

 あきらめたのか、その場に力なく崩れ落ちる越野さん。

 でもどうして彼女が……

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