五十夜美咲事件帳 No.000【男スポ作品】
「死亡者は片桐一夫。

 身長180cm、35歳独身の男性。

 死亡推定時刻は“午後23時前後”。

 閉店後、他の店員が帰って間もないですね。

 死亡場所は厨房。

 死因は“後頭部を床で強打”したことによる“頭蓋骨陥没及び脳挫傷”が直接的な要因と考えられます。

 第一発見者はこの店の店員で名前は伊地山五郎(いちやまごろう)、アルバイト。

 シフト上たまたま朝一番で出勤し、厨房に掃除に入ったところで発見したそうです」

「わかりました」

 話を聞きながら自分の手帳に目を落として「ふむふむ」と頷く五十夜刑事。

「では次に現場の説明を」

「はい。

 いま私たちがいる場所、厨房はお店のホールからは“ほぼ隔絶”されています。

 厨房の喧騒をホールに聞かせないようにするための配慮だそうで、そのため“事故当時の目撃情報はなく”壁の防音処理もされているため“不審な物音やいい争い”の情報もありません。

 ただ……」

「ただ?」

「はい。“深夜2時頃”に近くのコンビニに買い物に出た男性が店の方からゴー、という音を聴いたそうです」

「ふむふむ」

「続いて現場の状況ですが、片桐は厨房内の中央に据えられた“調理台のそば”で“厨房内入り口側に頭を向けた仰向け”の状態で倒れていました。

 特に争ったような形跡はなく、何かの理由で“急いで走ろうとした際”に転倒したか、側に“昇降台”があったので高い位置にあるものを取ろうと上った際に“踏み外して落ちた”と想定されます。

 店の出入り口は伊地山さんが出勤されるまで施錠されていたそうです。

 これは夜間、店を閉めた後は強盗等への防止策のために人が残っていても帰宅する人間が店を出る際にそれぞれ必ず施錠しているためだろうとのことです。

 また店の出入り口の鍵はすべてカードキーが採用されていますので“外部の人間の犯行は不可能”と考えられます」

「ふむ。ありがとうございました」

 状況から考えるとどうやら事故で間違いはないようです。 

 と、わたしは思っていたのですが……。

< 4 / 20 >

この作品をシェア

pagetop