【完】今日も明日も、俺はキミを好きになる。
相槌を打ちながらも、視線の端で明希ちゃんを観察してしまう。
今日の明希ちゃんは、モスグリーンのブルゾンに細身のズボン。
これらをこんなに着こなせる人、他にいるのだろうか。
そんな人とこうして一緒にいて、偽彼をやってもらっているのだから、なんとなく肩身が狭い気がしてくる。
……そういえば。
今日、映画の前に明希ちゃんが言っていた、『ある人に頼まれて来た』という言葉はどういう意味だったのだろう。
知り合いが少ない私には、〝ある人〟の見当がまったくつかない。
その人は、私が大と映画に行けないことを知っていたのだろうか。
そんなことを考えていたら、ふと瞼が急激に重みを増した。
私の様子に気づいたのか、隣から柔らかい声が落ちてきた。
「ヒロ、眠い?」
「うん、少し……」
「着いたら起こすから、寝てていいよ」
「ありがとう」と言おうとしたのに、言葉になっているかもわからない。
私は答え終わるか終わらないかというタイミングで、ふっと握っていた風船を飛ばすかのように意識を手放した。